私だけかもしれませんが、翻訳書って読みにくく感じることが多い気がします。
そのあたりについて、ちょっと考えてみました。
別のページ「ハリー・ポッターを原書で読もうとする人たち」で、無理して英語版のハリー・ポッターを読む人たちのことを紹介しました。
実は、彼らにも英語で読まなければならない理由があるようです。
別にマニアックなハリー・ポッター ファンをフォローするわけではありませんが。
昨日も書いたとおり、翻訳が遅いというのがその理由の一つです。
原書が出てから翻訳本が出るまで一年もかかります。
これは、ベストセラーでは異例の遅さらしいです。
聞いた話なので、正確なところはわかりませんが。
もう一つ大きな理由があります。
それは、翻訳書の出来が悪いという点です。
翻訳書の出来が悪いというのはどういうことか、もう少し具体的書いて見ましょう。
「誤訳が多い」「言葉の選択に疑問を感じる点が多い」「日本語の文法の誤りが多い」「確認すべき点を確認していない」といった感じでしょうか。
socksmith さんが書いてらっしゃったように「翻訳が子供向けのような…」というのもその一つでしょうね。
原作の雰囲気を邦訳が変えてしまったわけですから。
翻訳書が好きな方には申し訳ありませんが、かなり問題がありそうです。
私の感覚でも、原書と邦訳本はまったく別の本という感じがします。
原作の雰囲気をどのように残すのかが文芸書の翻訳者の腕の見せ所だと思うのですけどね。
それでは、さらに細かく見てみましょう。
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●言葉の選択に疑問を感じる点が多い
個人的に、一番問題を感じるのが、言葉のチョイスの問題です。
一番笑ったのが次のセリフ。
s-5-6
原文:”Harry, I’m begging you, please!”said Hermione desperately.(UK版P648)
邦訳:「ハリー、後生だから!」ハーマイオニーが必死で言った。(下32章P490)
http://www.geocities.jp/tomo_38jp/top.htm
後生だから…って。
ちなみに、ハーマイオニーというのは当時16歳位の女の子。
1979年生まれですから、最近の人という設定です。
「後生だから」というセリフからは昭和初期の香りがするんですけどね。
少なくとも、私は後生だからという単語を日常の生活で使ったことがありません。
この手の時代感覚の無い言葉がてんこ盛りで、物語の雰囲気を壊しているという指摘も多いようです。
私自身は、「敢えて古臭い言葉を選んでいるのかしら?」とすら思っています。
この他にも、次のような単語が笑いを誘います。
俺様
我輩
驚き桃の木
○○ざんす
おったまげー
金剛力
……
http://www.geocities.jp/hendayo_hp/shiteki.html
ね。
ここまでくると、狙ってやっているとしか思えないでしょ。
しかも、ここで挙げたのはほんの一部です。
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●誤訳が多い
次に誤訳についてです。
g-3-3
原文:Stan came back downstairs, followed by a faintly green witch wrapped in a travelling cloak.
(UK版3章P32)
邦訳:スタンが戻ってきた。その後ろに旅行用マントに包(くる)まった魔女が
緑色の顔を青くしてついてきた。(3章P50)
試訳:スタンが戻ってきた。旅行マントに身を包み、かすかに青ざめた魔女が後に続いた。
http://www.geocities.jp/tomo_38jp/top.htm
green というのは顔色の悪い状態を表していいます。
この邦訳だと最初から緑色だったことになってしまいます。
ハリー・ポッターの世界では、魔女は外見上は普通の人間のはずなんですよね。
しかも、元の英文には魔女の顔がもともと緑であることを示す要素はありません。
g-2-4
原文:In the end, Professor McGonagall conjured a large fan out of thin air… (US版P152)
邦訳:結局マクゴナガル先生が空気で大きなうちわを作り上げて… (11章P303)
試訳:結局マクゴナガル先生が何も無いところから大きな送風機(扇)を魔法で出し…
このconjureは魔法で何かを呼び出すこと。
つまりマクゴ先生は空中から魔法でうちわを取り出したので「空気で作り上げた」というのは明らかな誤訳。
out of thin air (何も無いところから)の解釈ミスかとも思われたがconjureの訳ミス。
何か他の単語(たとえばcomposeなど)と読みまちがったままむりやり作文したのでは?と考えられる。
http://www.geocities.jp/tomo_38jp/top.htm
解説の通り。
ついでにもう一つ。
g-1-8
原文:When Harry knocked they heard a frantic scrabbling from inside and several
booming barks.(UK版P104)
邦訳:ノックすると、中からメチャクチャに戸を引っ掻く音と、ブーンとうなるようなほえ声が
数回聞こえてきた。(P207)
試訳:ハリーがノックすると中からせわしなくドアを引っかく音がして、低い鳴き声が何度も響き渡った。
音が大きく反響してる状態。狭いハグリッドの小屋の中ででっかい犬(ファング)がウォンウォン大声で吼えてるのが響いて聞こえてきてると考えられる。
犬はブーンとは吼えない(鳴かない)。
http://www.geocities.jp/tomo_38jp/top.htm
これも解説の通り。
booming という単語を取り違えたのでしょうか?
あと、vanish を banish と取り違えた訳もありました。
まあ、これも細かい誤訳を挙げれば、大変な数になります。
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●確認すべき点を確認していない
特に問題なのが家族構成。
ハリーは母親の姉のペチュニアの家で生活しているのですが、実はこの姉妹のどちらが姉でどちらが妹かという関係が邦訳では定まっていないらしいです。
最初、ハードカバーの時にはハリーの母親が妹でペチュニアが姉だったそうです。
次に文庫本が出ると、ハリーの母親が姉になっているそうです。
でも、最終的に原書の最終巻を読むとハリーの母親が妹だということがわかります。
確かに、原書の一巻には sister としか出ていないので姉か妹かはわからないんですけどね。
出版前に確認するという手間は掛けないのでしょうか?
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●日本語の文法の誤りが多い
これは邦訳本をみて確認してください。
これを正しく直すだけで、日本語のトレーニングになると思います。
特に、後ろのほうの間に行けばいくほどひどくなる傾向があるようです。
実は、例として、ここで挙げたのはほんの一部で細かいものを挙げたらきりがありません。
原書を読みたくなる人の気持ちも、わからないではありませんね。
ところが、邦訳を読んでいる人の中にも違和感を感じない人も多いようです。
「子供にもぜひ読ませたい」といったコメントをネットで見たことがあります。
この本のおかしさに気づかないのが逆に不思議です。
子供に与える影響は良いものより悪いものの方が大きい気がするんだけどなぁ。
ハリー・ポッターの訳書に問題が多いと書きました。
しかし、問題があるのはハリー・ポッターに限りません。
その他の訳書にも読みにくい部分は多そうです。
例えば「金持ちとうさん貧乏父さん」。
この本も最初に読んだときにずいぶん読みにくく感じました。
プロの作家が書いた本ではないので、それが原因だろうと当時は思っていました。
でも、問題は翻訳にあったのかもしれません。
実際に、読みにくいと感じた部分で検証してみましょう。
邦訳: 資産と負債の差が純資産だが、そのもととなる資産には、高価だが本当には価値のないものや、本人にとって価値があるだけで実際は安物だというものも含まれていることがよくある。この「純資産」を…
この文は読みにくく感じます。
決して内容が難しいわけではないんですけどね。
一回読んだだけでは、理解しにくい。
とりあえず、邦訳から読みにくい理由を探って見たいと思います。
理解が難しい理由は文の主語と述語が離れているてんでしょう。
この文章の主要な部分「資産には … も含まれている …」という事ですよね。
しかし、「資産には」と「含まれている」の間にいろいろ入り込んでしまっているためにわかりにくくなっています。
語順を変更することで、だいぶ読みやすくなるのではないかと思います。
もう一つ、わかりにくいのが「資産と負債の差が純資産だが、」という部分。
この節と後ろの「そのもととなる…」という節の関係がよくわかりません。
この「だが」の用法、日本語に詳しい方に説明していただきたいです。
「資産と負債の差が純資産である。その資産には …」と書いた方がわかりやすいはずです。
原文がどうなっているかにもよりますが。
さて、もともとの英文はどうなっているか見てみましょう。
原文: Unlike the net worth ? the difference between your assets and liabilities, which is often filled with a person’s expensive junk and opinions of what things are worth ? this definishion (後略)
で、例に挙げた文は “‐” から “‐” までの the net worth (純資産)について説明する挿入句に該当します。
挿入句を一文にして前に出しているんですね。
そう考えると、文としては「純資産」が話題の中心(主語といって良いかな)になるのが望ましそうです。
あれ、こうしてみると翻訳者が which の先行詞を勝手に変えていますね。
「そのもととなる資産には」という言い方は明らかにおかしい。
元の英文だと定義が不正確だから、わかりやすくしたのかな?
意訳も結構ありますね。
まあ、文芸書ではないから多少は許されるのでしょう。
「含まれる」という動詞も変ですね。
which is often filled with だから「満たされる」ですよね。
ニュアンスが全然違います。
今まで挙げたポイントを踏まえ、書き換えてみました。
次のように書き換えたら多少意味がわかりやすくなるのではないでしょうか?
試案: 純資産というのは資産と負債の差で表されるもので、価値があると勝手に思っているだけの物と高価なガラクタで満たされていることがよくある。この純資産を…
これも、たいして読みやすくなっていないですね。
翻訳は難しい。
何れにしても、挿入句が入っていて訳しにくいのは理解しますが、訳者の方にはもう少し頑張って欲しいです。
文を2つに分けているわけですから、それほど難しくないはずですし。
さらに、翻訳書の話をつづけます。
翻訳書の中に質の悪いものもあるのも致し方ないかもと思わせる話だと思います。
小説などの翻訳している人が、どの程度の報酬を得ているかご存知ですか?
参考になるサイトがありました。
印税は、[本の定価×印税率(6〜8%)×刷り部数]で計算される。印税率は8%が慣例といわれるが、中小の出版社ではこれより低く設定していることも多い。翻訳した本の刷り部数が大きければ大きいほど翻訳家の報酬も上がる仕組みだが、初版1万部を超えるような作品はそもそも多くない。増刷の確率も低く、初版だけで消えてしまう本も珍しくないのだ。たまたま大ベストセラーに当たれば、1冊で数千万円が入ってくるようなこともないわけではないが、そうしたケースは極めてまれだ。
http://www.alc.co.jp/eng/hontsu/h-wakaru/shuppan1.html
簡単に計算してみましょう。
1万部刷る本を翻訳したとして、その本の定価が2,000円だったとします。
そうすると上の式から、報酬が120万円から180万円となります。
でも、実際には1万冊刷らない本も多いでしょうから1冊翻訳しても100万円行かないケースも多そうですね。
普通の小説は、一冊2,000円もしないでしょうし。
ということは、年収で500万円稼ごうと思えば、年間5冊も翻訳しなければなりません。
2ヶ月ちょっとで一冊翻訳ですか。
小説一冊というとどの程度書かなければいけないのでしょうか?
あ、関連の有る情報発見しました。
400字詰原稿用紙で500枚あれば、厚みが1センチぐらいの文庫本ができる。
http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1414701554
文庫で1cmから2cmくらいの厚さの作品が多いでしょうから、原稿用紙500ページから1,000ページ位かな。
そうすると、5冊翻訳するには原稿用紙2,500ページから5,000ページです。
あら。
これはシンドイ感じですね。
しかも、ただ訳せば良いのではなく文芸作品のレベルでやらなければいけないわけですから。
これだったら、別の道を目指した方が手っ取り早いですね。
そもそも、そんなに立て続けに仕事が来ないでしょうし。
まあ、この金額でまともに推敲しろというのが無理なのかも。
翻訳本の訳がひどいのもしかたが無いかという気になってこないでもありません。
翻訳家って、外国語を学ぶ人にとっては花形の職業だと思っていたんですけどね。
一部のヒット確実な書籍を翻訳できる人以外は、かならずしも、そうではないみたいです。
文芸作品の翻訳家を見つけたら優しくてあげましょう。
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